北海道の開拓は、開拓使長官黒田清隆とお雇い外国人のケプロンの手で進められました。彼らの構想は、北海道に欧米の技術を導入することで、一躍欧米並みの水準に達せしめようという壮大な計画であり、あらゆる分野の専門家がから招へいされました。その中の一人が若干24歳の青年エドウィン・ダンでした。彼の役割は酪農と牧畜を日本に広めることであり、その基地として選ばれたのが真駒内でした。
■家畜とともに太平洋を渡る
ダン家は彼の祖父の代にスコットランドからアメリカに渡り、オハイオ州に6000ヘクタールもの大牧場をもつほどに成功していました。ダンはマイアミ大学を卒業後、父の経営する牧場で牧畜全般の経験を積みました。
明治6年に開拓使への採用が決まると、ダンは実家から42頭の牛と約百頭の羊を14台の連結貨車に詰め込み、シカゴからサンフランシスコ、そして太平洋航路の外輪船で横浜に上陸しました。
はじめ東京・麻布の第三官園で欧米から輸入した家畜の飼養や牧草の試作、技術指導にあたり、明治8年に東京から七重官園(現・七飯町)へ家畜の一部が移されることになり、ダンはその任に当たりました。
翌明治9年、開拓使は札幌に新たな牧場を開くことを決め、ダンに牧場づくりをゆだねました。すでに札幌にあった官園は札幌農学校に移管されることとなったため、新たに酪農を担う基地を作る必要があったのです。ダンは牧草栽培の適地として乾燥した丘陵地を求め、真駒内に牧牛場を設置することとしました。
■クラーク博士のモデルバーン
明治9年、札幌農学校にクラーク博士が教頭として着任しました。博士は前任のマサチューセッツ農科大学で明治2年に建築した畜舎をモデルに、札幌農学校第2農場と真駒内牧牛場に当時最新式の家畜房(モデルバーン)を建てました。
基本設計は札幌農学校第2代教頭をつとめたW.ホイラーがつとめ、開拓使工業局の建築技術者・安達喜幸が実施設計を行い、明治10年に竣工しました。ダンは家畜房の建設や牛、馬、豚、羊などの飼育場の整備を手伝いました。真駒内の家畜房は残っていませんが、札幌農学校のモデルバーンは今でも残されており、一般にも開放されています。
建築当初のモデルバーンは2階建てに地下を持つ3層構成をしており、上層へは馬車で乾草を運び込めるよう土盛りのスロープを設けていました。しかし、明治43年に札幌農学校のモデルバーンが改築された際、使い勝手の問題からスロープはなくなり、現在の姿となっています。
■北海道の酪農の原点
ダンは真駒内牧牛場で多くの日本人青年に、アメリカ式の酪農・畜産を伝えます。日本最初期のバターやチーズの製造は彼の指導によるもので、のちに北海道酪農の基礎を築く町村金弥(札幌農学校2期生)らが、その技術を必死に学び取りました。
金弥はほどなく真駒内牧牛場の場長となり、その後、雨竜町村農場を経営。陸軍省の技師を務めた後、大久保町長を10年間務めました。金弥の酪農家と政治家の2つの経歴を、二人の息子が引き継ぎます。酪農家を引き継ぎ、今に続く町村農場を起したのが長男・敬貴。政治家を引き継ぎ、北海道知事を三期務めたのが五男・金五。金五の次男が官房長官などを歴任し、2015年に亡くなった信孝になります。
また、金弥が真駒内牧牛場の場長だった時代に見習いとして採用したのが宇都宮仙太郎です。金弥は、仙太郎の熱意をみこんで、アメリカ牧畜業研究のための渡米を支援します。アメリカ各地の牧場で実習を積んだ仙太郎は帰国後、民間で最初のバターの製造販売を手がけ、のちに北海道製酪販売組合連合会(酪連)を立ち上げました。この酪連が今の雪印乳業へとつながっていきます。
■外交官として、日米交流に貢献
明治15年開拓使が廃止されると、ダンは帰国の途につきました。しかし、日本での仕事がアメリカ政府に高く評価され明治17年にはアメリカ公使館二等書記官として再来日。明治26年には全権公使にまで昇進しました。
最初の妻であるツル夫人を伴い、鹿鳴館では日米の絆を深めるべく献身的な外交を行いました。日清戦争では北京在住の公使と協力して和平交渉を行い、早期終結に貢献。公使辞任後は、新潟県上越地域での石油採掘事業を起こすなど活躍しました。昭和6年、東京代々木の自宅にて永眠。ツルと同じく東京の青山墓地に眠ることとなりました。
ダンが42頭の牛とともに太平洋を渡り、真駒内に来てから140年余り。今では北海道の乳牛は80万頭を越え、牛乳の生産量は380万トンに達しています。
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