天神山の麓にある「天神藤」が見頃を迎えています。北海道最古の樹齢150年以上とされる名木で、25メートル四方に広げた枝にいくつもの淡い紫色の花房がしだれ、訪れた見物客の目を楽しませています。
天神藤一帯は、現在天神山緑地の拡張予定地として整備工事が進められており、普段は立ち入ることができませんが、天神藤の開花中は特別に一般開放されます。今年の開放期間は、5月14日から6月3日までの午前9時~午後5時までです。
咲き始めもいいが、花が終わる時期もまた風情がある。先週末甘い香りの花がやわらかな風に散りこぼれる藤(ふじ)棚の下を歩いた
▼札幌・平岸。説明書きに「北海道最古の藤」とある。盆栽として本州から移植、丹精して育てたとか。樹齢百六十年。木の周り約二メートルの老木がうねるように四方に枝を伸ばす。波打つ房を垂らして咲く薄紫の花が美しい。近くの天神山にちなんで天神藤
▼藤の花は昔から日本人に愛された。「万葉集」に多くの歌がある。「源氏物語」で光源氏の最愛の人は藤壺(ふじつぼ)。「枕草子」でも「めでたきもの」として藤の花をあげている
▼優雅で神秘的。そんなことを考えながら、藤棚で短い時間を過ごしたのだ。なぜ藤が好まれるか。作家の栗田勇さんは「花を旅する」(岩波新書)で「紫だから」と書いている。「鮮やかな紫が見る人の心を打つのでは」。確かに紫は、洋の東西を問わず、古代から高貴な色とされた
▼天神藤は、個人の庭をこの時期に限って開放しているものだ。冬の除雪、剪定(せんてい)が大変らしいが「もっと困るのはマナーの悪い来訪者」と言われて、心が痛んだ。高貴さを愛する人が優しい心の持ち主とは言えないようだ
▼札幌は藤の花が散るころから初夏本番となる。市街地では早くもポプラの綿毛が舞い始めた。きょう五日は、穀物の種をまく適期とされる芒種(ぼうしゅ)。道内ではいよいよ屋外行事も活発化する。(2001年6月5日北海道新聞朝刊・卓上四季より)