昭和40年8月2日から連載がスタートした北海道新聞日曜版『北海道百年』は、156回にわたって連載され、その後上中下の三巻に分けて出版。2002年には『星霜 北海道史1868-1945』と改題して復刻されました。
新聞記者が現場に立ち会い、関係者にインタビューし、背後関係を調べて真相に迫る新聞づくりの手法を歴史取材に持ち込み、それまで注目されてこなかった庶民の歴史にスポットをあて、多くの反響を呼びました。
初版の出版当時、北海道拓殖銀行会長だった故・広瀬経一さんは「毎日の勤めに神経をすりへらすサラリーマンにとって、日曜日の朝ほど楽しいものはない。近ごろの私には、それにもう一つ、欠かせぬ楽しみがある。日曜日ごとに道新に連載される『北海道百年』である。これはしち面倒くさい歴史ではない。さまざまのエピソードや珍しい写真などを豊富にまじえた、平明で機知に富んだ筆致は、読者の心をひきつけてはなさない。しかし、注意深く読んでみると、そのかげには、実に膨大な史料の蒐集と、あくまで正確を期そうという努力の跡がうかがわれる」(中巻の序文)と本書を絶賛しています。
北海道の人はよく「歴史がない」と言いますが、これは大きな間違いです。オホーツク文化やアイヌ文化など、開拓以前から北海道には本州とは異なる独自の歴史があります。
また、近年これまでの常識をくつがえすような大発見が北海道で相次いでいます。
2013年、むかわ町で日本で初めてとなる恐竜の完全骨格が見つかりました。これは、日本の古生物学史上最大の発見といわれています。さらに、アポイ岳や洞爺湖有珠山が世界ジオパークに認定されるなど、北海道には世界に誇るべき地質を多く有しています。
「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、世界でも唯一の1万年の長期にわたって、持続可能な狩猟・採集文化を築き上げた縄文文化の中心地として、世界遺産への登録が進められようとしています。さらに、2020年には国立アイヌ文化博物館が開館します。
しかしながら、『北海道百年』がそうであったように、北海道のたいていの郷土史は開拓以後に焦点をあてたものばかりで、このことが「北海道には歴史がない」といった誤った考えを生むもととなっています。
私が『平岸の歴史を訪ねて』の連載を始める際、開拓時代からはるかに遡って、自然史編、縄文・古代史編の連載に2年余りの時間を費やしたのは、この誤った考えを多少なりとも払拭したいと思ったからでした。
最近では、ブラタモリの影響などで、身近な歴史に関心を持つ人が増えてきています。再来年に北海道開拓150周年を迎えるにあたり、北海道の歴史を振り返る機会が増えてきました。
にもかかわらず、だれでもが楽しみながら振り返ることができる北海道の歴史書がないことに気付きます。『北海道百年』ほど克明に、かつわかりやすく北海道の歴史の全体像を追ったものはこのあと生まれていません。
北海道新聞は北方文化の発展を標榜し、地域に根差したメディアです。今こそ、この問題に取り組み、親しみやすくかつ奥深い、本格的な歴史シリーズの連載を日曜版で始めるときだと思います。