大通りの西のはずれに位置する札幌市資料館。もともとは、大正15年に札幌控訴院(現在の高等裁判所)として建てられました。
外壁は内側にレンガ、外側に札幌軟石を積み上げた構造で、貴重な歴史的建物として平成9年に国の有形文化財に指定されています。
さて、建物の正面に回ると奇妙なことに気づきます。
中央の赤い屋根の下に丸いくぼみがあります。くぼみの中には、何も描かれておらず、何かがはめ込まれていたのを後になって外したような印象を受けます。
その答えが、旧控訴院入ってすぐのエントランスホールにあります。
ここには実物の1/100スケールで作られた模型が飾られています。その横に製作者による解説があります。
製作者は美園の加藤幸作さん(故人)。美園リンゴ会会長を務め、環状通のリンゴ並木の碑を建てたり、郷土史を出版するなど地域に大きな足跡を残された方です(環状通りんご並木の意外なルーツ りんごが結んだ飯田市と札幌市の深イイ話)。
この解説文を読むとタバコのパッケージ2,400枚を使って、5ヶ月かけて制作したとあります。
加藤さんのタバコのパッケージ製模型については、以前このブログでも取り上げました(タバコの箱でできたリアルすぎる『豊平館』in天神山アートスタジオ)。
加藤さんの作品の凄さは、タバコのパッケージに一切着色せず、使用していることです。
つまり赤色な赤色、金色なら金色のデザインのパッケージを選んで切り抜き、その部分だけを使って作品を作り上げているのです。
模型の正面を拡大してみると菱形に並ぶ赤い屋根や、札幌軟石を感じさせる外壁など、細部にわたって精密に再現されていることがわかりますが、一点だけ実物と異なる点があります。
実物では空白だった中央のくぼみに金色の紋章がはめ込まれている点です。
これは、天皇を表す菊の紋章で、控訴院が天皇の機関であることを示す象徴として、飾られていました。
控訴院が建てられた大正15年は、加藤さんが20歳の年にあたります。加藤さんにとっては、菊の紋章がはめ込まれた姿の方が自然だったのかもしれません。
菊の紋章は、敗戦後に連合国軍総司令部(GHQ)の命令で撤去され、一時は館内に隠されていましたが、現在は札幌高等裁判所に保管されています。
現在、札幌市資料館では、創建90周年にちなんだ展示会が行われており、この菊の紋章も展示されています。
入場無料。展示会は11日までで午前10時~午後6時。詳細は資料館☎011-251-0731まで。