地震予知の難しさと基礎研究の重要性①拙速な結果を求める風潮に物申す

熊本地震発生から10日が経過しました。

過去の地震報道の経過を考えると、今後前兆現象の有無が取りざたされてくると思います。

GPSのデータに変動があった、地震雲があった、動物の行動に異変が・・・といった科学的なものからエセ科学まで玉石混交の情報が入り混じるでしょう。

 

また、大衆向けのブログなどでは、次には危ないのはどこだ、といった扇情的なタイトルで読者を引き寄せようとするサイトも目に付くようになりました(一昔前は週刊誌などに多くありましたが)。

 

さらには、地震学者は何をやっているのか、基礎研究は必要なのかといった議論も出てくるでしょう。

 

私の専門は古生物学であり、地震は専門外ではありますが、地球科学を学んだものとして、これらの疑問に答えたいと思います。

まず実際にあった体験談をお話ししましょう。

 

私が母校である金沢大学に入学する2年前に、阪神・淡路大震災がありました。

当時講座におられた助教授が、なんとか地震予知の手掛かりをつかみたいと考えた末に着目したのが、“地下水”です。

活断層が割れる前後の変化を地下水から読み取ることができれば、地震予知につながる可能性があります。といっても、地震発生前後の震源地付近の地下水を手に入れるのは、地震が起きた後では不可能のように思われました。

 

が、そこは研究者、目のつけどころが違います。

その先生は、六甲産を売りにしたあるミネラルウォーターに着目します。

製造年月がはっきりしており、地震前後の時系列変化を容易に追えること。

さらに、製品管理が徹底されているので、異物の混入などのノイズを取り除けること。

これらの利点に目を付けたのです。

 

早速その商品を取り寄せ、調査した結果、地震発生直前に地下水の成分に異常が観測されました。

そのことから、「地下水で地震を予知できるかもしれない」と考えたその先生は、金沢の湧き水を観測し、異常が現れないかチェックしはじめました。

 

そして観測開始から1年余りがたったある日、地下水の成分に異常が観測されたのです。

すわ、金沢でも大地震かと地球学科全体を巻き込んだ混乱劇の始まりです。

 

阪神・淡路大震災でも異常があったのだから公表すべきだという意見もありましたが、観測データの数が少な過ぎて確かなことがわからない以上、むやみに不安を煽ることはさけるべきであるとして、結局この地下水の異常は公表されませんでした。

 

その結果、どうなったのか?

 

結論からいうと、何も起きませんでした。

つまり、大きな地震の前には何らかの前兆現象が発生する場合がありますが、前兆現象(のような異常現象)があるからといって地震が起きるわけではないということです。

 

ここが、地震予知の難しいところです。

今回の熊本地震でも前兆現象があったのかもしれませんが、地震予知につなげるには、仮説を立て、観測データを増やし、その仮説を検証していくという地道で気の長い作業が欠かせないのです。

 

現実的な地震予知には、数日以内に、半径数十㎞の精度で、マグニチュード±1以内・・・これぐらいの精度が必要であり、ゴシップ誌のタイトルにあるような「半年以内に東日本で大地震!?」みたいなものは、何の役にも立たないのです。

 

日本の地震研究は間違いなく世界トップレベルですが、残念ながらまだまだ地震予知には至っていないというのが現状です。

 

では、地震の基礎研究は無駄なことなのでしょうか?

 

続きはこちらから→地震予知の難しさと基礎研究の重要性②100年後に実を結んだ基礎研究

 

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